大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)1866号 判決 1986年9月29日

原告(反訴被告)

生野運送株式会社

被告(反訴原告)

由井由春

ほか一名

主文

1  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)由井由春に対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が一四〇万円を超えて存在しないことを確認する。

2  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)由井治子に対する右事故に基づく損害賠償債務が二八〇万円を超えて存在しないことを確認する。

3  反訴原告(被告)らの反訴被告(原告)に対する将来に生ずべき前項の事故に基づく損害の賠償を求める訴えをいずれも却下する。

4  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)由井由春に対し八二万七〇九九円、反訴原告(被告)由井治子に対し四七万九九二四円及び右各金員に対する昭和五二年四月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

5  反訴原告(被告)らのその余の請求を棄却する。

6  反訴費用は、本訴及び反訴を通じ被告(反訴原告)らの負担とする。

7  本判決は第4項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 原告(反訴被告。以下、本訴及び反訴を通じ単に「原告」という。)の被告(反訴原告)由井由春(以下、本訴及び反訴を通じ単に「被告由春」という。)に対する別紙目録記載の交通事故(以下、「本件事故」という。)に基づく損害賠償債務が一四〇万円を超えて存在しないことを確認する。

2 原告の被告(反訴原告)由井治子(以下、本訴及び反訴を通じ単に「被告治子」という。)に対する本件事故に基づく損害賠償債務が二八〇万円を超えて存在しないことを確認する。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告由春に対し二億七〇七五万八三二一円、被告治子に対し一億四六八六万二九九一円及び右各金員に対する昭和五二年四月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 原告は、被告らの体内に残存する造影剤(被告由春についてはマイオジール、被告治子についてはコンレイ。)を全部除去せよ。

3 原告は、被告らに対し、被告らの本件事故に基づく受傷が治癒するまでの間、毎月二五日限り、被告らに将来生じる一切の損害を賠償すべき金員を支払え。

4 訴訟費用は原告の負担とする。

5 第1ないし第3項につき仮執行宣言。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

被告らは、本件事故につき、その加害者たる原告において反訴請求の趣旨第1項記載のとおりの額の損害賠償債務があると主張し、現に原告に対しその履行を求めている。

しかし、原告の被告らに対する右損害賠償債務は、被告由春との関係では一四〇万円、被告治子との関係では二八〇万円を超えては存在しないので、被告らとの間で右部分の債務の存在しないことの確認を求める。

二  本訴請求原因に対する被告らの認否

被告らが原告に対し、右のとおりの権利主張をしていることは認める。

三  本訴抗弁(反訴請求原因)

1  本件事故に対する原告の責任

昭和五二年四月三〇日本件事故が発生したところ、次の事実があるから、原告は、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条または民法七一五条により後記損害を賠償する責任を負うものである。

(一) 原告は本件事故当時加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

(二) 原告は、貨物運送を業とする株式会社であり、本件事故当時、自己の従業員である訴外出村義満に加害車両を運転させて自己の営業活動に従事させていたものであるが、右出村としては、本件事故現場に差し掛かつた際、被告由春運転の車両と歩道との間隙が狭く、加害車両が十分な余裕をもつて右被告車両の左側方を通過できる状況になかつたのであるから、加害車両と衝突・接触しないよう減速徐行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務を負つていたのに、これを怠り、被告車両の左側方を容易に通過できるものと軽信してわずかの減速で進行しようとしたばかりでなく、その際アクセルとブレーキとを踏み違えて突如加速して進行した過失により本件事故を発生させたものである。

2  被告由春の損害

(一) 治療経過

被告由春は、本件事故による受傷のため、次のとおりの治療を余儀なくされた。

(1) 昭和五二年四月三〇日から同五三年二月七日までの間、長吉総合病院に通院。

(2) 昭和五三年二月八日から同年三月二五日までの四六日間同病院に入院。

(3) 昭和五三年三月二六日から同五四年八月一〇日までの間、同病院に通院。

(4) 昭和五四年四月五日から同月二〇日までの間、星ケ丘厚生年金病院に通院。

(5) 昭和五四年七月四日から同年一〇月二四日までの間、大阪赤十字病院に通院。

(6) 昭和五四年一〇月二五日から一一月一七日までの二四日間、同病院に検査のため入院。

(7) 昭和五四年一一月一八日から現在まで同病院に通院。

なお、被告由春は、大阪赤十字病院のほか、昭和五七年一月ころから現在に至るまで、明治橋病院、共立病院、回生会藤田病院、鈴川医院等の多数の医療機関において、本件事故の受傷につき治療を受けているが、未だ治癒するには至らず、その症状も固定していないので、今後も引き続き治療を継続しなければならない状況にある。

(二) 治療費(七三万二四八九円)

被告由春は、前記治療のため、星ケ丘厚生年金病院に対し九七七一円を、大阪赤十字病院に対し昭和五六年七月末日までの治療費として七二万二七一八円をそれぞれ支払つた。

なお、被告由春は、生活保護法による医療扶助を受けているため、昭和五七年一月二八日以降の治療費については、鶴見区または平野区の福祉事務所がこれを支払つている。

(三) 入院雑費(七万一〇〇〇円)

被告由春は、前記七一日間の入院中、一日あたり一〇〇〇円の割合による雑費を支出した。

(四) 通院交通費(五六万六二四〇円)

被告由春は、前記長吉総合病院及び大阪赤十字病院への通院治療のため、昭和五六年七月末日までに五六万六二四〇円の交通費を支出した。

(五) 休業損害(二億七〇七五万八三二一円)

被告由春は、本件事故当時、自動販売機によるタバコ販売業に従事するとともに、喫茶店兼スナツク「峰」及び喫茶店「双園」を経営し、かつ大松産業株式会社にも勤務して給与を得ていたので、その月収は一六一万五六二〇円であつたところ、本件事故による受傷及びその治療のため今日に至るまで全く就労することができず、また、右営業に従事することもできない状態となつた。その結果、各営業は廃業のやむなきに至り、被告由春は収入の途を絶たれてしまつた。したがつて、被告由春が事故の翌日である昭和五二年五月一日から同六一年九月末日までの九年五か月(一一三か月)の間に喪失した収入の総額は二億七〇七五万八三二一円である。

(六) 慰藉料(三三六〇万九六〇〇円)

被告由春は、本件事故により前記のような長期の治療を要する傷害を負い、多大の精神的・肉体的苦痛を受けたところ、これを慰藉するに足りる慰藉料の額としては、三三六〇万九六〇〇円が相当である。

3  被告治子の損害

(一) 治療経過

被告治子は、前記受傷のため、次のとおりの治療を余儀なくされた。

(1) 昭和五二年四月三〇日から同年五月一二日までの間、長吉総合病院に通院。

(2) 昭和五二年五月一三日から六月八日までの二七日間、同病院に入院。

(3) 昭和五二年六月九日から同年九月一四日までの間、同病院に通院。

(4) 昭和五二年九月一二日徳洲会野崎病院で受診。

(5) 昭和五二年九月一五日から同年一〇月六日までの二二日間、同病院に入院。

(6) 昭和五二年一〇月七日から同月二三日まで、同病院に通院。

(7) 昭和五二年一〇月二四日から同年一一月八日までの一六日間、同病院に入院。

(8) 昭和五二年一一月九日から同五四年一二月二七日までの間、同病院に通院。

(9) 昭和五四年一二月二八日から同五五年一月九日までの間、同病院に通院。

(10) 昭和五五年一月一〇日から同月二三日まで一四日間、同病院に入院。

(11) 昭和五二年一〇月一二日から同年一二月七日までの間、関西医科大学付属病院に通院。

(12) 昭和五二年一二月八日から同五四年二月七日までの間、同病院に通院。

(13) 昭和五二年一一月一八日から同年一二月九日までの間、中西歯科に通院。

(14) 昭和五二年七月二五日大阪赤十字病院において受診。

(15) 昭和五四年三月一九日から現在まで星が丘厚生年金病院に通院中。

(16) 昭和五四年七月一一日から現在まで大阪市立大学医学部付属病院に通院中。

なお、被告治子は、右のほか大阪府立病院、鈴川病院において現在も治療を受けているが、未だ治癒するには至らず、その症状も固定していないので、今後も引き続き治療を継続する必要がある。

(二) 治療費(二一万六〇七四円)

被告治子は、前記治療のための治療費として関西医科大学付属病院に、星ケ丘厚生年金病院、大阪市立大学医学部付属病院に二一万六〇七四円を支払つた。

なお、被告治子は、生活保護法による医療扶助を受けているため、昭和五五年二月一四日以降の治療費については、平野区福祉事務所にこれを支払つている。

(三) 入院雑費(七万九〇〇〇円)

被告治子は、前記(一)の(2)、(5)、(7)、(10)の計七九日間の入院期間中、一日当たり一〇〇〇円の割合による雑費を支出した。

(四) 通院交通費(七万一〇四〇円)

被告治子は、前記長吉総合病院へ通院するため七万一〇四〇円の交通費を支出した。

(五) 休業損害(一億二〇九一万一八六九円)

被告治子は、本件事故当時、喫茶店兼スナツク「由起」を経営していたほか、大松産業株式会社にも勤務し、これらにより毎月七五万円(一日二万五〇〇〇円)の収入を得ていたところ、本件事故による受傷及びその治療のため、本件事故後現在に至るまで全く就労することができず、また、右経営にも従事することができない状態となつた。その結果、右営業は廃業のやむなきに至り、被告治子もまた、全く収入を得ることができなくなつてしまつた。したがつて、被告治子が昭和五二年五月一日から昭和六一年九月末日までの九年五か月(一一三か月)の間に喪失した収入の総額は、一億二〇九一万一八六九円である。

(六) 慰藉料(三三六〇万九六〇〇円)

被告治子は、本件事故により前記のような長期の治療を要する傷害を負い、多大の精神的・肉体的苦痛を受けたところ、これを慰藉するに足りる慰藉料の額としては、三三六〇万九六〇〇円が相当である。

4  造影剤(マイオジール)による損害

原告は、昭和五四年一〇月ころ、その代理人泉康夫を介して被告両名に対し、本件事故による受傷の内容の検査と称して脊髄造影検査を受けるよう強く要求したので、被告由春は、やむなく、同月二九日大阪赤十字病院において、造影剤マイオジールを腰椎からくも膜下腔に注入して脊髄の病変を検索する脊髄造影検査を受けた。ところが、このマイオジールは、その後間もなく使用禁止となつたほどの毒性の強い物質である上に、容易に体内から除去することができないものであるため、被告由春の場合も、右検査後これが除去されないまま体内に残存し、その結果、発熱・血圧低下・循環器障害等の副作用が発症するようになつた。しかして、これらの症状もまた、本件事故に起因する損害であることが明らかであるから、原告は、これを被告由春の体内から除去して原状に回復する義務がある。

よつて、被告らは、いずれも自賠法三条または民法七一五条に基づき原告に対し、反訴請求の趣旨第1項記載の各損害賠償金とこれに対する本件事故の日である昭和五二年四月三〇日から完済するまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原状回復として被告らの体内から右造影剤を除去することを求め、さらに、被告らの損害が治癒して治療を必要としなくなるまでの間、その額を現時点で特定することはできないが、被告らに生じる一切の損害を賠償すべき金員の支払を求める。

四  本訴抗弁(反訴請求原因)に対する原告の認否

1  本訴抗弁1の事実中、本件事故が発生したこと、原告が本件事故当時加害車両を所有していたこと、訴外出村義満が本件事故当時原告の従業員であつたことの各事実及び本件事故の発生につき出村に運転上の過失があつたことは認める。

2(一)  本訴抗弁2の(一)の事実中、被告由春が(1)ないし(7)の経過で治療を受けたとの点は認め、その余の事実は否認する。被告由春は、本訴事故によつて受傷したため長期間にわたつて治療を続けているが、事故後約二年を経過して昭和五四年三月、前記長吉総合病院での主治医によつて、同被告の症状にはほとんど変化が見られなくなり、治療効果が上らなくなつたとして症状固定の診断がなされ、その後、大阪赤十字病院に転医し詳細な検査を受けて治療を継続したものの、やはり治療の効果は上がらなかつたのであるから、いわゆるむち打ち症の一般的症状、要治療期間から考えても、昭和五四年三月(遅くとも昭和五四年一二月末)には、その症状が固定したものである。したがつて、それ以降の治療は、本件事故による受傷の治療としては何ら効果のないものというべきである。

(二)  同2の(二)の事実は知らない。

(三)  同2の(三)の事実は、被告由春が七一日間の入院期間中、一日当たり六〇〇円の割合で雑費を支出したとの限度において認め、その余は否認する。

(四)  同2の(四)の事実は、二万〇八〇〇円の限度で認めるが、それを越える部分は否認する。

(五)  同2の(五)の事実のうち、被告由春がタバコ販売業及びスナツク「峰」の経営をしていたことは認めるが、喫茶店「双園」は、店舗の前所有者に手付を交付しただけでまだ売買代金も支払つていなかつたのであるから、これを経営していたような事実はないし、また、大松産業株式会社は、当時営業していなかつたのであるから、同被告が同会社に勤務して給与を得ていたような事実もない。さらに、被告由春の右タバコ販売業及びスナツク営業による昭和五一年度の年間所得額は三〇六万五〇〇〇円にすぎず、同被告の月収が一六一万余円であつたとの点は事実に反する。

しかして、被告由春の前記受傷の症状が昭和五四年三月(遅くとも同年一二月末)固定したことは前記のとおりであるところ、その症状固定と同時に仮になんらかの後遺障害が残存していたとしても、その障害の内容と程度は、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表(以下、「自賠責等級表」という。)に定める第一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当するものであつたはずであるから、被告由春が本件事故によつて失つた収入の額は、昭和五四年一二月末日を症状固定時期とみ、かつ症状固定までの間労働能力が一〇〇パーセント失われていたとしても、三二か月分の休業損害(八一七万三三四四円)と固定後四年間の逸失利益(一五三万九三一三円)とを併わせた九七〇万二六五七円を超えるものではない。

(六)  同2の(六)は否認する。仮りに慰藉料を算定すべきものとすれば、その治療経過や後遺障害の程度からみて一四〇万円が相当である。

3(一)  本訴抗弁3の(一)の事実中、被告治子が(1)ないし(8)、(11)、(15)、(16)の経過で治療を受けたとの点は認め、その余は否認する。被告治子の前記受傷は、継続して治療を受けていたのに、昭和五三年五月ころにはほとんど症状が変化しないようになり、同五四年三月一〇日には、徳洲会野崎病院での主治医により症状固定の診断を受けたのであるから、いわゆるむち打ち症の一般的症状、要治療期間から考えても、昭和五三年五月の時点でその症状が固定したものというべきであり、仮りにその時点でないとしても、その後の星ケ丘厚生年金病院や大阪市立大学医学部付属病院での治療によつても何ら症状に変化がなかつたのであるから、遅くとも昭和五四年三月一〇日(最大限譲歩しても同年一二月末日)頃には、その症状が固定したものというべきである。

(二)  同3の(二)の事実は知らない。

(三)  同3の(三)の事実は、被告治子が六五日間の入院期間中一日あたり六〇〇円の雑費を支出したとの限度で認めるが、それを超える部分は否認する。

(四)  同3の(四)の事実は六三八〇円の限度で認め、それを超える部分は否認する。

(五)  同3の(五)の事実は否認する。被告治子は、本件事故前すでにスナツク「由起」の店舗を家主に明け渡し、これを廃業していたものである。仮に同被告が当時なんらかの収入を得ていたとしても、その額は、同被告の昭和五一年度の申告所得額八二万円程度にすぎない。また、同被告が大松産業株式会社に勤務して給与を得ていた事実がないことは被告由春におけると同様である。

しかして、被告治子の前記受傷による症状が遅くとも昭和五四年三月一〇日(最大限譲歩しても同年一二月末日ころ)に固定したことは右のとおりであるところ、その症状固定と同時に仮になんらかの後遺障害が残存したとしても、その障害の内容と程度は、自賠責等級表に定める第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当するものであつたはずであるから、かりに被告治子が事故当時統計上の女子労働者の平均給与額に相当する収入(月収一三万二六六七円)を得ており、かつ右症状固定の時期が昭和五四年一二月末日でその間労働能力が一〇〇パーセント失われていたものとしても、同被告が本件事故によつて失つた収入の額は、三二か月分の休業損害(四二四万五三四四円)及び症状固定後二年間の逸失利益(一四万八一三五円)を併わせた合計四三九万三四七九円である。

(六)  同3の(六)は否認する。かりに慰藉料を算定すべきものとすれば、治療経過や後遺障害の程度からみてその額は一四〇万円が相当である。

五  再抗弁(反訴抗弁)

1  被告由春の損害の填補

(一) 被告由春は、昭和五二年一二月一八日、本件事故による損害の賠償として、自動車損害賠償責任保険(以下、「自賠責」という。)による保険金五六万二〇六〇円の支払を受けた。

(二) 原告は、被告由春に対し、治療費、メガネ・コルセツト代金を除く本件事故の損害の賠償として、別紙既払額一覧表(Ⅰ)(以下、「別表(Ⅰ)」という。)のとおり、合計一〇二五万五六一五円を支払つた。

2  被告治子の損害の填補

(一) 被告治子は、本件事故による損害の賠償として、昭和五二年一二月九日に二五万円の、同五三年二月一日に一二万五二九〇円の自賠責による各保険金の支払を受けた。

(二) 原告は、被告治子に対し、昭和五二年五月三〇日本件事故による損害の賠償として一五万円を支払つた。

(三) 原告は、被告治子に対し、治療費を除く本件事故に基づく損害の賠償として別紙既払額一覧表(Ⅱ)(以下「別表(Ⅱ)」という。)のとおり合計二九七万二五〇〇円を支払つた。

六  再抗弁に対する被告らの認否

1(一)  再抗弁1の(一)の事実は認める。

(二)  同1の(二)の事実中、別表(Ⅰ)の第二五、第二六、第三一回の各支払の事実は否認し、その余の支払の事実は認める。

2(一)  再抗弁2の(一)の事実は認める。

(二)  同2の(二)の事実は認める。

(三)  同2の(三)の事実中、別表(Ⅱ)の第二七回目の支払の事実は否認し、その余の支払の事実は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一反訴請求について

一  本件事故が発生したこと及び原告が本件事故当時加害車両を所有していたことは、いずれも当事者間に争いのないところ、右事実によれば、原告は、本件事故当時加害車両を自己のために運行の用に供していたものとして、自賠法三条により後記認定の損害を賠償する責任を負うものといわなければならない。

二  被告由春の損害

1  治療経過及び後遺障害の有無

(一) 症状固定の時期

被告由春が反訴請求原因(本訴抗弁)2の(一)の(1)ないし(7)のとおり、本件事故による受傷につき治療を受けたことは当事者間に争いのないところ、同被告は、右受傷は未だ治癒するに至つていないばかりでなく、その症状も固定していないと主張し、原告はこれを争うので、まずこの点について検討するに、成立に争いのない甲第八、第二三号証、第二五号証の一ないし四、第三七号証、証人平山正樹の証言により真正に成立したものと認められる甲第二四号証、証人稲次征人の証言により真正に成立したものと認められる甲第四〇ないし第四二号証、証人平山正樹、同稲次征人の各証言、被告由春本人尋問の結果及び鑑定人大石昇平の鑑定の結果を総合すれば、右治療経過中の被告由春の症状について、次の事実が認められる。

(1) 被告由春は、本件事故の日から頻繁に長吉総合病院に通院し、当初から頸部痛、頭痛、吐き気、背部・後頭部痛等の頸椎挫傷に起因する症状を訴えていたが、各種腿反射に異常もなく、他覚的所見としては、大小後頭神経領域の圧痛、傍腰椎部の圧痛、下肢の伸展筋反射亢進がみられる程度で、他に特段の異常も認められなかつたので、これに対する治療も、薬物の投与、頸椎牽引等の保存的治療の方法がとられていた。

(2) ところが、昭和五二年六月二〇日過ぎころ事業に行き詰まつて不渡り手形を出したりしたことから、同月二四日以降同年八月二五日までの約二か月間にわたり通院治療を中断したが、その後同月二六日から再び頻繁に長吉総合病院に通院するようになり、さらに、前記のとおり、同五三年二月八日から三月二五日まで同病院に入院するなどして前同様の治療を受け続けたものの、その症状は特別に軽快することもなく一進一退を繰り返し、やがて昭和五三年五月ころには慢性化の傾向をみせるようになつてきた。その結果、昭和五四年三月一〇日ころ、終始被告由春の症状の推移を監察してきた同病院の松島医師及び平山医師は、頸椎挫傷・腰部挫傷の症状はほぼ固定し、爾後治療を継続してもさしたる治療効果を期待することはできないとの判断を下すにいたつたが、同被告が右症状固定の診断を受け治療を打ち切られることに強く反対する意向を示していたような事情もあつたため、主治医である右平山医師において明示的に同被告の症状が固定した旨の診断を最終的に下すには至らないまま、本人の希望もあつて、同五四年八月、同被告を大阪赤十字病院に転医させることとした。

(3) 大阪赤十字病院に転医後も、不定愁訴が続くのみで、被告由春の症状はさしたる変化はみられず、昭和五四年一〇月二九日に脊髄造影法により脊髄、硬膜内外の病変の検索を行う検査が施行されたが、それによつても特段の病変は発見されるには至らず、その後も従前の症状に変化はみられなかつたところ、右脊髄造影検査に用いられた造影剤マイオジールが若干量体内に残存していることを知るに及んで、その副作用や後遺障害に対し、異常な恐怖心を持つようになり、軽度の抑うつ状態で被害的念慮が強い旨の診断を受けるなど神経症的な所見もみられるようになつた。

以上に認定の事実に照らして考えると、被告由春の症状は、大阪赤十字病院へ転医した昭和五四年八月の時点においてほぼ慢性化し、それ以上の治療を加えてみても医学的にはほとんど治療効果が上がらない状態にたち至つていたものであつて、遅くとも前記脊髄造影検査の結果脊髄等に特段の病変の存在しないことが判明した後、若干の観察期間が経過した昭和五四年一二月末には、同被告の症状は固定していたものとみるのが相当である。

(二) 後遺障害の有無及び程度

前掲の各証拠によれば、被告由春の本件事故による受傷は、右症状固定時点において完全に治癒したものではなく、バレリユー型の外傷性頸部症候群なる後遺障害が残存していたこと、その後遺障害は、自賠責等級表に定める第一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当するものであることがそれぞれ認められる。

2  治療費

前掲甲第四〇号証及び成立に争いのない乙第三七号証の三によれば、被告由春が、昭和五四年七月四日から同年一一月三〇日までの間の前記大阪赤十字病院での入通院治療につき、社会保険の自己負担分として九万三七六二円の治療費を支払つたことが認められる。

さらに、右甲第四〇号証によれば、同年一二月一日から同五六年一月三一日までの同病院での通院治療につき、自己負担分として一一万六八一〇円の治療費を支払つたことが認められるけれども、そのうち症状固定の時期である昭和五四年一二月末日までの治療について支払つた部分がいくらであるかを証拠上明らかにすることができないところ、被告由春が支出した治療費のうち本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められるのは、右症状固定時以前に生じたものに限られるというべきであるから、結局、右治療費一一万六八一〇円については、そのうちいくらが本件事故と相当因果関係に立つ損害であるかを確定することができず、結局これを原告の賠償すべき損害と認めることはできないといわざるをえない。また、星ケ丘厚生年金病院での通院治療につき自己負担分として九七七一円を支払つたとの点についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

3  入院雑費

被告由春が前記受傷の治療のため前記症状固定時までの間に合計七一日間の入院を必要としたことは当事者間に争いのないところ、経験則上、同被告は右入院期間中一日あたり七〇〇円の雑費を支出したものと推認することができる(右金額のうち一日あたり六〇〇円の雑費を支出したとの部分は当事者間に争いがない。)。

4  通院交通費

反訴請求原因(本訴抗弁)2の(四)の通院交通費のうち二万〇八〇〇円については当事者間に争いのないところ、これを超える部分については、それを認めるに足りる証拠がない。

5  休業損害

前記のとおりの被告由春の受傷及び治療の状況に照らせば、同被告は、本件事故時から右症状固定時までの三二か月にわたり就労することができなくなり、このため本件事故当時得ていた収入に相当する収入を失うことになつたものと推認すべきである。

そこで、同被告が本件事故当時得ていた収入の額について判断するに、成立に争いのない乙第二四号証の一、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる同号証の二及び被告由春本人尋問の結果によれば、被告由春は、本件事故当時、飲食店「峰」を経営するかたわら、自動販売機によるタバコ販売業を営んでいたものであるが、昭和五一年度のタバコ販売・飲食店経営による営業所得が三〇六万五〇〇〇円であつた旨の所得税確定申告をしたことが認められるのであつて、この事実によれば、同被告は本件事故当時、年間三〇六万五〇〇〇円の営業所得をあげていたものと推認することができる。

ところで、被告由春本人尋問の結果中には、右タバコ販売業及び飲食店「峰」の経営によつて一日当たり平均二五万円の売上げがあり、そのうち三万六〇〇〇円程度が純利益であつた旨の供述部分があり、乙第一九号証の二及び三にも右供述に副うかのごとき記載が存在するが、同被告がただそのように供述するだけで、その裏付となるような帳簿や伝票等の証拠資料が何ら見当らない本件においては、右証拠のみによつて、同被告が、右確定申告にかかる営業所得の額よりも多額の右のごとき収入を実際に得ていたものと認めることは到底できず、他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。

なお、被告由春は、右タバコ販売業及び飲食店「峰」の経営のほか飲食店「双園」の経営に従事し、さらに大松産業株式会社にも勤務して相当の収入を得ていた旨主張するが、被告由春本人尋問の結果によれば、同被告が飲食店「双園」を現実に営業したことはなく、また、大松産業株式会社も本件事故当時営業活動をしておらず、同被告が同社に勤務して給与を得ていたような事実もないことが認められるので、同被告の右主張を採用することはできない。

そうすると、被告由春が本件事故によつて被つた休業損害の額は、八一七万三三三三円となる。

3,065,000÷12×32=8,173,333(円)

6  逸失利益

前記のとおりの被告由春の受傷及びその治療の状況並びに後遺障害の程度に照らせば、同被告は、前記後遺障害によつて、症状固定時から四年間にわたり、その労働能力を一四パーセント喪失したものと認めるのを相当とするところ、同被告が右後遺障害によつて失うことになる収入総額から、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同被告の逸失利益の右症状固定時における現価を算出すると、一五二万九四四一円となる。

3,065,000×0.14×3.5643=1,529,441(円)

7  慰藉料

前記のとおりの被告由春の本件事故による受傷及び後遺障害の程度、その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、同被告が本件事故によつて被つた精神的、肉体的苦痛を慰藉するに足りる慰藉料の額は二〇〇万円と認めるのが相当である。

三  被告由春の損害の填補

1  反訴抗弁(本訴再抗弁)1の(一)の事実及び同1の(二)の事実中、別表(Ⅰ)の第二五、第二六、第三一回の各支払の点を除くその余の支払の事実は当事者間に争いがない。

2  弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第五〇号証の一ないし四、成立に争いのない乙第三一号証の一、二及び一四並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、治療費を除く本件事故による損害の賠償として、被告由春に対し、(一) 昭和五五年三月二七日(別表(Ⅰ)の第二五回の支払日)に一六万六二九〇円、(二) 同年五月一日(別表(Ⅰ)の第二六回の支払日)に二四万二五〇〇円、(三) 同年九月一二日(別表(Ⅰ)の第三一回の支払日)に二四万二五〇〇円の各支払をしたことが認められる。

四  被告治子の損害

1  治療経過及び後遺障害の有無

(一) 症状固定の時期

被告治子が反訴請求原因(本訴抗弁)3の(一)の(1)、ないし(8)、(11)、(15)及び(16)のとおりの経過で本件事故による受傷の治療を受けたことは当事者間に争いのないところ、同被告も右受傷は未だ治癒するに至つていないばかりでなく、その症状も固定していないと主張するので、以下のこの点について検討するに、成立に争いのない甲第九、第二七号証、第三〇号証の三ないし二一、第三六号証、証人上西正明の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第二六号証、証人平山正樹、同上西正明の各証言、被告由春本人尋問の結果及び鑑定人大石昇平の鑑定の結果を総合すれば、右治癒経過中の被告治子の症状について、次の事実が認められる。

(1) 被告治子は、長吉総合病院に通院するようになつた当初から、頭痛、頸部痛、吐き気、しびれ感等の症状を訴えていたが、同被告の他覚的症状としては、両大小後頭神経部の圧痛と頸部の運動痛が認められる程度で、各種腱反射及びレントゲン検査の結果には特段の異常はなかつたので、これに対する治療も、薬物の投与や頸椎の牽引等の保存的治療の方法がとられることとなつたが、前記二の1の(一)(2)に認定のような事情で同被告も夫の被告由春とともに昭和五二年六月二一日から同年八月二五日までの約二か月間にわたり、通院治療を中断した。

(2) その後同五二年八月二五日から被告治子は、治療を再開するようになり、間もなく、徳洲会野崎病院に転医するとともに同病院における治療中、脳波、心電図、レントゲン等の詳細な検査を受けたが、右検査によつても、加齢的要素を主たる原因とする頸椎軟骨の軽度の骨化現象が認められたほかは、これといつた病変も認められなかつた。ただ、被告治子は同病院において、それまでに訴えていた頭痛や頸部痛以外に、時として激しい心労や不眠を訴えたり、様々の部位に圧痛やしびれ感(客観的他覚的所見に乏しい不定愁訴)を訴えるようになり、昭和五三年五月ころには、それが、慢性化する傾向をみせるようになつた。

(3) 野崎病院での被告治子の主治医である上西正明医師は、その後も引き続き被告治子の症状の経過を観察していたが、昭和五四年三月二〇日ころ、同被告の症状は、直接外傷に起因するものではなくて、むしろ神経内科的な治療を要する神経症の症状であり、したがつて、これに対して外傷の治療を目的とする対症療法を続けてみても、もはや何らの治療効果を上げることもできないと判断し、右外傷に基づく同被告の症状は昭和五四年三月一二日固定したものと診断した。

以上の事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。そして、右認定の事実に照らせば、被告治子の本件事故による受傷は、昭和五四年三月一二日ころその症状が固定したものと認めるのが相当である。

(二) 後遺障害の有無及び程度

前掲各証拠によれば、被告治子の本件事故による受傷は右症状固定時点において完全に治癒していたわけではなく、心因反応を主体とする外傷性神経症なる後遺障害を残していたこと、この後遺障害は自賠責等級表に定める第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)に準ずるものであることがそれぞれ認められる。

2  治療費

被告治子が支出したと主張する治療費のうち、星ケ丘厚生年金病院及び大阪市立大学医学部付属病院に関する部分が右症状固定時期以後の治療費であることは、前記認定の同被告の治療経過から明らかであり、これをもつて本件事故と相当因果関係に立つ損害ということはできない。また、関西医科大学付属病院分については、これを認めるに足りる証拠がない。

3  入院雑費

被告治子が前記受傷の治療のため右症状固定時までの間に合計六五日間入院したことは当事者間に争いのないところ、経験則上、同被告は右入院期間中一日あたり七〇〇円の雑費を支出したものと推認することができる(右金額のうち一日あたり六〇〇円の雑費を支出したとの部分は当事者間に争いがない。)。

4  通院交通費

反訴請求原因(本訴抗弁)3の(四)の通院交通費のうち六三八〇円については当事者間に争いのないところ、これを超える部分については、それを認めるに足りる証拠がない。

5  休業損害

前記のとおりの被告治子の受傷及び治療の状況に照らせば、同被告は、本件事故時から右症状固定時までの約二三・五か月にわたり就労することができなくなり、このため、本件事故当時得ていた収入に相当する収入を失うことになつたものと推認すべきである。

そこで、同被告の本件事故当時における就労及び収入の状況について検討するに、成立に争いのない甲第一四号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第四八号証、乙第六号証の五、被告由春及び同治子各本人尋問の結果によれば、被告治子は、本件事故当時満四三歳で、被告由春とは別に、従業員数名を使用して飲食店「由起」を経営し、自らも午前八時ころから深夜まで同店で働いていたこと、昭和五一年度の所得税の確定申告においては、同年度の同店での営業所得は八二万円であつた旨申告したが、この申告額は過少であり、実際には、これよりもかなり多額の営業所得があつたことがそれぞれ認められる。もつとも、被告治子の実際の所得額については、被告由春本人尋問の結果中に、右飲食店「由起」の一日当たりの売上高は、平均五万円程度であり、そのうち約半分が利益であつたとの供述部分があり、乙六号証の三にも右供述に副う部分があるけれども、その裏付となるような証拠が全く存在しない本件においては、右記載及び供述部分のみを採つて、被告治子の本件事故当時の営業所得の額が右のとおりであつたと認めることは到底できないといわなければならず、かつ、その他に右所得額を確定するに足りる的確な証拠は見当らない。しかし、右認定の経営状態等から考えて、被告治子には、少なくとも昭和五二年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・四〇歳ないし四四歳女子労働者平均年間給与額一五九万二〇〇〇円を下らない所得があつたものと推認するのが相当であるから、被告治子が本件事故によつて休業せざるを得なかつたことにより被つた休業損害の額は、三一一万七六六七円と算定すべきである。

1,592,000÷12×23.5=3,117,667(円)

なお、被告治子が本件事故当時大松産業株式会社に勤務して給与所得を得ていたとの点については、被告由春について説示してとおり(前記二の5)、これを認めるに足りる証拠がない。

6  逸失利益

前記のとおりの被告治子の受傷及びその治療の状況並びに後遺障害の程度に照らせば、同被告は、前記後遺障害によつて、前記症状固定時から二年間にわたり、その労働能力を五パーセント喪失したものと認められるところ、同被告が右後遺障害によつて失うことになる収入総額から、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同被告の逸失利益の右症状固定時における現価を算出すると、一四万八一六七円となる。

1,592,000×0.05×1.8614=148,167(円)

7  慰藉料

前記のとおりの被告治子の本件事故による受傷及び後遺障害の程度、その他本件において認められ諸般の事情に照らせば、同被告が本件事故によつて被つた精神的、肉体的苦痛を慰藉するに足りる慰藉料の額は一一〇万円と認めるのが相当である。

五  被告治子の損害の填補

1  反訴抗弁(本訴抗弁)2の(一)、(二)の事実及び同2の(三)の事実のうち、別表(Ⅱ)の第二七回の支払の点を除くその余の支払の事実は、当事者間に争いがない。

2  弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第五〇号証の五及び弁論の全趣旨によれば、原告は、治療費を除く本件事故による損害の賠償として、被告治子に対し、昭和五五年五月一日(別表(Ⅱ)の第二七回の支払日)に七万七五〇〇円を支払つたことが認められる。

六  造影剤除去請求について

被告由春は、本件事故による受傷の治療の過程で脊髄造影検査の際に同被告の体内に注入された造影剤マイオジールが体内に残存し副作用を生じていることをもつて本件事故による損害であるとするとともに、その原状回復として原告にその除去を求めるもののごとくであるが、不法行為の加害者が、金銭による損害の賠償義務のほかに、原状回復として右のごとき作為義務を負うべきことを認める実体法上の根拠は何ら存在しないから、被告由春の右請求は、その主張自体において失当というべきである。

なお、被告治子のコンレイ除去請求については、これを理由あらしめる請求原因事実の主張が全くないので、それが失当であることも明らかである。

七  将来の損害の賠償請求について

金銭の支払を求める給付訴訟においては、現在の給付を求める場合か将来の給付を求める場合であるかを問わず、給付を求める金銭の額を特定することを要するものというべきところ、被告らの反訴請求のうち将来の損害の賠償を求める部分は、金銭の支払を求めるものでありながらその額を特定しておらず、当裁判所の補正の求めにもかかわらず、被告らはそれが不可能であるとして結局一定金額を表示する措置を採らなかつたものであるから、右請求部分は不適法といわなければならない。

八  反訴請求の結論

以上によれば、原告は、被告由春に対し、自賠法三条に基づく、前記二の2ないし7の合計額一一八六万七〇三六円から同三の既払額一一〇三万九九三七円を控除した残額八二万七〇九九円及びこれに対する本件事故の日である昭和五二年四月三〇日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、被告治子に対し、自賠法三条に基づく、前記四の3ないし7の合計額四四一万七七一四円から同五の既払額三九三万七七九〇円を控除した額四七万九九二四円及びこれに対する右同様の遅延損害金の各支払をなすべき義務がある。

第二本件請求について

原告の本件損害賠償債務不存在確認の訴は、被告らが本件事故に基づく損害賠償請求権として本件において主張している二億七〇七五万七八三二一円(被告由春)及び一億四六八六万二九九一円(被告治子)から、原告においてなお残存するものと自認する一四〇万円(対被告由春関係)及び二八〇万円(対被告治子関係)を控除した残額の範囲の債務額の不存在の確認を求めるものと解すべきところ(最高裁判所昭和四〇年九月一七日第二小法廷判決、民集一九巻六号一五三三頁参照)、被告らの原告に対する本件事故に基づく損害賠償請求権の残額は前記認定のとおりであつて、いずれも原告において残存するものと自認している債権額を下回るものであるから、原告が本訴において不存在の確認を求めている右範囲の債務は全部存在しないものといわなければならず、したがつて、原告の右請求は全部理由があるというべきである。

第三まとめ

よつて、原告の本訴請求を全部認容し、被告らの反訴請求を前記の限度で認容し、被告らのその余の請求を失当として棄却し、ただし被告らの将来の損害の賠償請求(反訴請求の趣旨第3項)は不適法としてこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤原弘道 山下満 橋詰均)

交通事故目録

発生日時 昭和五二年四月三〇日午後八時ころ

発生場所 大阪市平野区加美鞍作三丁目二番二六号先道路上

加害車両 普通貨物自動車(登録番号、大阪一一き一九二〇号。)

右運転者 訴外出村義満

事故態様 右出村が、加害車両を運転し時速約二〇キロメートルで右道路東行車線を西から東に向かつて進行中同一車線上の前方に右折のため停止していた被告由井由春運転(被告由井治子同乗)の普通乗用自動車と左側の歩道との間の狭い間隙を通つて直進しこれを追い抜こうとしたところ、自車の右前部を右被告車両の左後部フエンダー部分に衝突させ、これにより、被告由井由春に対し頸椎挫傷の、被告由井治子に対し頭頸部挫傷の各傷害を負わせた。

既払額一覧表(Ⅰ)

<省略>

既払額一覧表(Ⅱ)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例